Tailscale 経由の NAS 転送が遅い原因と診断手順
Tailscale の接続経路を確認し、iperf3 による回線測定、ストレージ、SMB、CPU、ファイル数の順に遅い原因を切り分けます。
NAS の LAN がギガビット対応でも、Tailscale 経由のファイル転送が同じ速度になるとは限りません。たとえば持続速度が 1.5MB/s なら約 12Mbps に相当し、1TB を送るだけでも理論上約 7.7 日かかります。
まず、端末同士が直接接続しているか、中継を使っているかを確認します。その後、ファイル転送を伴わないネットワーク測定と、ディスクの読み書き、SMB の比較を行うと、改善すべき場所を絞れます。
1. 直接接続、ピア中継、DERP を確認
Tailscale の主な接続方式は次の三つです。
- **直接接続:**端末間で UDP を使って通信します。
- **ピア中継:**同じ tailnet 内の別端末を経由します。
- **DERP 中継:**直接接続やピア中継を確立できない場合に、Tailscale の中継サーバーを使います。
いずれも WireGuard によるエンドツーエンド暗号化を使います。対象端末との通信を発生させてから、次を実行します。
tailscale status
tailscale ping <peer-name-or-IP>
表示された direct、relay、peer-relay を確認してください。接続開始時には DERP を使い、その後で直接接続へ切り替わる場合があります。最初の ping だけで判定せず、転送中の表示も確認します。詳細は公式の接続方式の説明を参照できます。
| 表示 | 経路の特徴 | 遅い場合に確認する項目 |
|---|---|---|
| direct | 中継を挟まず、通常は遅延と転送性能の面で有利 | 上り回線、CPU、ディスク、SMB、ファイル数 |
| peer-relay | 同じ tailnet の端末を一つ経由 | 中継端末の帯域、負荷、設置場所 |
| relay | DERP サーバーを経由し、性能が制約される場合がある | netcheck の結果、UDP、NAT、ファイアウォール |
2. 中継を使っている理由を調べる
tailscale netcheck
結果から UDP の利用可否と NAT の状態を確認します。二重ルーター、CGNAT、ファイアウォール、端末のセキュリティソフト、IPv4 と IPv6 の違いも候補です。ポート設定を変更する前に、組織のセキュリティ方針と必要な通信を確認してください。公式の性能トラブルシューティングが参考になります。
3. 同じ経路でネットワークの実効速度を測る
# 宛先
iperf3 -s
iperf3 -c <tailscale-IP> -t 30
iperf3 -c <tailscale-IP> -R -t 30
iperf3 -c <tailscale-IP> -P 4 -t 30
iperf3 のマニュアルに従い、同じ端末間で通常方向、逆方向、複数接続を比較します。SMB を使わずにどこまで速度が出るか、方向による違いがあるか、直接接続へ切り替わった後に変化するかを確認します。必要に応じて時間を延ばし、持続性能も測ってください。
ネットワーク測定でもファイルコピーと同程度の速度しか出なければ、コピーアプリだけを変えても制約は残ります。4 接続にした場合だけ速くなるなら、単一接続の挙動や CPU の負荷を調べる手掛かりになります。ただし、SMB が同じ速度になるとは限りません。
4. ストレージをローカルで測る
転送元の連続読み出しと、宛先の書き込みをローカルで測ります。DSM リソースモニターで CPU、メモリー、ディスク使用率、通信量も確認してください。
RAID の再構築、データスクラブ、Hyper Backup、索引作成、サムネイル生成、ウイルス検査、スナップショット整理が同時に動いていないかを調べます。空き容量不足や、ストレージプールの劣化状態も転送へ影響する候補です。
5. SMB とトンネルの影響を分ける
大容量ファイル一つと、実際の小さなファイルを含むフォルダーを SMB で送ります。次に、組織が許可している別の転送方式や、Tailscale を使わない LAN 内の SMB と比較します。
遠隔 SMB では要求と応答、メタデータの操作が往復遅延の影響を受けます。署名や暗号化には端末側の処理も必要です。そのため、iperf3 が速くても、遠隔のフォルダーを操作する速度が同じになるとは限りません。
6. データを送る側の上り回線を見る
遠隔の利用者が NAS からダウンロードする場合、NAS のある拠点では上り回線を使います。上り 20Mbps なら、通信の追加処理を除いても理論上約 2.5MB/s が上限です。一般的な速度テストは相手と経路が異なるため、実際の拠点間測定と併せて判断します。
7. CPU と暗号化の負荷を確認する
NAS では、トンネル、SMB の署名と暗号化、チェックサム計算、ファイルサービスが CPU を使います。特定のコアやプロセスが上限に達し、ディスクとネットワークには余裕がある場合は、CPU 処理が制約になっている可能性があります。
8. 実際のファイル構成で比較する
動画一つの転送では、接続の準備をした後に連続してデータを送れます。数万の小さなファイルでは、一覧取得、作成、属性確認、開閉が繰り返され、処理ごとに応答を待つ場面も増えます。小さなファイルの転送が遅くなる理由も参照してください。
専用転送ツールが役立つ条件
回線とストレージの上限を把握した上で、再開処理、小さなファイルのまとめ送り、転送履歴を改善したい場合は、専用ツールを比較できます。WarpDirect は tailnet 上の SMB とは別の転送経路を使うため、同じファイルを送って総所要時間と再開動作を比べます。ツールを変えること自体が改善の保証になるわけではありません。NAS が中心の拠点では、複数拠点の NAS 構成で、端末と定期ジョブをまとめて管理する方法を確認できます。
最初に確認するのは接続方式です。そこからネットワークの双方向測定、ローカルの読み書き、SMB、大容量ファイルと小さなファイルの比較へ進めば、設定を変える理由を明確にできます。Tailscale の構成が必要な速度と運用要件を満たしていれば、そのまま継続できます。これらのコピーが 2 拠点の Synology をそろえるためのものなら、オフィス間の Synology NAS 同期の比較で、単発の転送、同期ジョブ、Snapshot Replication のどれが合うかを判断できます。
よくある質問
Tailscale の NAS 転送が 1.5MB/s しか出ないのはなぜ?
DERP 中継、直接接続しにくい NAT、UDP の制限、送信側の上り、宛先ストレージ、遅延の大きな経路上での SMB 処理、CPU、小さなファイルの多さなどが候補です。まず接続方式を確認します。
DERP を使っているか確認する方法は?
通信を発生させてから tailscale status または tailscale ping の direct、relay、peer-relay 表示を見ます。relay の場合は tailscale netcheck で UDP と NAT を調べます。
DERP 中継は直接接続より安全性が低いですか?
いいえ。Tailscale は直接接続、DERP 中継、ピア中継のいずれも WireGuard でエンドツーエンド暗号化されると説明しています。主な違いは、経路と遅延、転送性能です。
別の転送ツールなら Tailscale の遅さを直せますか?
必ずしも直りません。まず回線とストレージの上限を把握します。専用ツールは再開、バッチ、長距離挙動を改善できても、端末や経路の帯域上限を超えることはできません。